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社長さーん。 HAIREIがまたなんかやらかしたみたいですよ
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彼の復元作業は困難の連続であった。
まず、物理的損傷の激しい頭部と
下腹部にある予備データを吸い出し‥
仮の機体へ移すのに一晩、

部品の調達と組み上げに一月、

データと機体の調整が済んだ頃には、
季節が移り変わっていた…

「‥」
瞼を開いた彼は、起き上がって辺りを見回す。
いつもと違う光景に戸惑っているのだろう

「コこハどコ、イまハなンネんなンガつなンニちなンジなンプん…」
声を乱し、質問を連発する。

『ここはお前の家、今は20XXMmDd…』
それに答えてゆくマスター。

「アナタはだれですか」
状況把握…落ち着いたのだろう、声が通常に戻った彼は
一点を見つめ、もう一度問い掛けた。
「アナタは、誰ですか」
青い目に映る、生身の人間は
『俺はお前の、マスターだ』
自らの名を、彼に告げる。

「マスター?では僕の名前を、言ってみてください」
『カイト。ったく、お前‥寝ぼけているだろ?』

マスターという人間は彼‥カイトに
幾つかの嘘をついている。
ふたりのやり取りを傍で聞いていたメイコは、目を細めて呟いた。

「私のときと、同じ」

その口元に、笑みをこぼしながら。

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街中の私的工房(みんか)…
処分場から這い出て、力尽きた廃機‥彼は
何者かに拾われ、そこへ運び込まれた。

「おかえりな…ッ!?」

出迎えたのは…先日、修復を終えたばかりの人型ロボット、
メイコ(彼女がそう名乗った)だった。

「マスター、どうしたんですか、その……」

運び込まれた機体の状態を見て、
口を閉じるのを忘れた彼女に

『メイコ、今夜のリクエストだが‥』
マスターと呼ばれた者は修復ツールの用意をしながら指示を出す。
『テンションの上がる‥アツいのを頼む』

「わかりました」
メイコはPCに接続し、ライブラリを呼び出す。
「…検索」
蓄積された膨大な数の楽譜(ファイル)。
「…選択」
そのなかより、これから歌う曲を選び
「…同期」
自らの媒体(メモリー)へ書き込む。
それらは[ボーカロイド]と呼ばれた彼女達の儀式。

「‥完了」
接続解除後‥PCに伴奏開始を命じ、一呼吸したメイコは
機材と彼を繋げてゆく部屋の中心‥マスターへ向かい

「‥あなたの為に、歌うわ‥」

歌いはじめたとき、冷めた工房(へや)はアツい舞台(はこ)へと変わる。

『さあ、俺達も始めようか?』
マスターはメイコの激唱にあわせ、
蘇生作業に取り掛かる‥しかし

『覚悟してたが‥ここまで物理的損傷(ダメージ)が酷いとは』

作業台に寝かされた機体の胸に手を置き、
彼に刻まれた[コードネーム]で囁いた。

『おまえも祈れよ、カイト』

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【黄泉帰り・後日】

『なんだありゃ‥』

廃機に近付く影。

『‥廃機(ドール)か?』

機体に触れ、無事そうな部品はないかと探った手で‥
携帯電話を取りだし

『あー‥モナぽん?チョット、今から送る場所(トコ)に車持って来てくれ』

【ヨミガエリ/序】

軽トラックのエンジン音が近づく。

「どうしたモナ?」

運転席から顔を出したのは猫型ヌイ‥AA系ロボットだった。

『面白いものを見つけた』
「‥また、モナ?」

車から降り、現場に近づく。

『[彼女]の次は[彼]…何かの縁なのかねぇ、コレは』

彼と呼ばれた廃機(もの)は毛布に包まれ、
荷台に積まれて何処かへと消える。

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町外れにある最終処分場‥
それは主をうしなったロボット達が、
原材に還るまで棄て置かれる場所。

ここに持ち込まれたモノは
不慮の起動による事故を防ぐため、動力と可動部は外されるのだが…
たまに未処理のモノが、混じっていることがある。
それでも電池切れなので動く事はないはずだが‥

「‥めeちa‥n」
傷だらけの腕が、山を崩した。

「‥どkにいttたn」
はいずり出した、身体。

未処理、とはいえ廃棄物‥
皮膚は破れ、剥き出された外殻、
割れた場所からはみ出た原色のケーブル‥
欠けた部品が、痛々しい。

「m‥chぁん」

割れた声で誰かの名を呼ぶ顔は、片方の目が‥ない。

全身が出た直後、バランスを崩し、山から転げ落ちた。
固い地面にたたき付けられた衝撃で割れ落ちる様々な部品。
それでも

「めーch‥」

誰かを探しながらさ迷い動く姿は、
ふるい映画に出てきた[ゾンビ]のようだった。

しかし、それは偶然に与えられた、仮初めの命。

クズ山から、処分場から抜け出した廃機は‥

「…めーちゃん」

最期までその名を呟いて‥動きを、止めた。

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